アレクシス・コーナーに興味を持ったのは、199811月、発売されたばかりのザ・ローリング・ストーンズの本『A Life On The Road』を読み始めた時だった。「Alexis Korner」、その名前に妙に惹かれてしまった。何かにハマる時はいつもそうなのだが……。

 

「どんな音楽なのだろう?」と思い、とりあえず一枚CDを買ってみることにした。たまたま選んだもの、それが『Testament』だった。「すごい!」驚きと衝撃。でもどこか懐かしく、ずっと探していた音に出会えたような気分。「他にはどんな音源があるのだろうか?」「一体どんな人だったのだろうか?」その頃はネット上で検索しても彼に関するサイトは殆どなく、手当たり次第にLPCDを買い集めた。

 

きるだけ多くの人に彼の音を聴いてもらいたい。そのキッカケにでもなれればと思い、素人ながらにこうしてサイトを作ることを決めた。ロックの歴史を振り返 る上で彼の名前を目にすることはあるだろうけど、彼の音楽を聞いたことのある人は少ないだろうと思う。ましてや私のように70年代生まれやそれ以降の世代なら、なおさら。

 

彼のラジオ番組を聴きたかったし、彼のライヴを観たかったなあ。

 

ようやく、唯一入手した彼のライヴ・ビデオは、1983年のマーキー・クラブ25周年イベントでのライヴ。チャーリー・ワッツやビル・ワイマンらとの競演。2002年にはドキュメンタリー映像付のDVDとしても発売された。初めてみる彼の映像。もう既にすっかり痩せ細っていた……。彼が歌う姿は少なかったけど、やっぱり「ブルース・マン」なんだよね。その魂はしっかりとレコードに刻まれているし、多くのアーティストがその魂を受け継いでくれている。

 

 

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Review

Testament

(20057/SmashingMag)

 

「ひとりで来たの?こっちに友達でもいるの?」(もちろん英語。)

 

「ひとりだよ。知り合いなんていなし、全然。」(と言っているつもり。首を振っているだけ。)

 

「へぇ~、勇気あるねぇ。」

 

 海外で初めて会う人とのよくあるやりとり。まぁ確かに無謀ともいえる行動なのかも。周囲も認める重度の方向音痴が2度目の海外旅行でいきなり独りだった のだから。行き先はロンドン。3泊。メールで何度かやりとりしたことのあっただけの人に会いに。もちろん英語で会話なんて無理。それでもどうしても話を聞 いてみたかった、生前の「彼」を知る人から。

 

「彼」とはAlexis Kornerのこと。「British Rhythm&Bluesの父」などと呼ばれたりしている。The Rolling Stonesのファンの人にはおなじみでしょうか。 FreeSmall FacesKing CrimsonLed Zeppelinからでもたどりついてしまうかも。まあとにかく、ストーンズ経由で興味をもち、試しに買ってみた1枚が、引きこもり傾向にあった人間をひとり飛行機に乗せてしまったのである。

 

 その1枚が"Testament"というライヴ・アルバム。1曲目の"One Scotch, One Bourbon, One Beer"(John Lee Hookerのカバー)が、いきなりだがハイライト。AlexisMCで始まるのだが、それを聞いているだけで充分に会場の雰囲気や空気感まで伝わって くる。まるで自分もその場にいるような感覚。そしてそのまま"Stump Blues"(Big Bill Broonzyのカバー)へ。「この人かなりの音楽好きのはず」と確信。鳥肌、半泣き。Colin Hodgkinson(Colosseum)によるベース1本での"32-20 Blues"Robert Johnsonのカバー)まで、LPでいうところのSide1が聴きどころ。2人だけのステージで派手さはないが、初めの1枚としてめぐり合えたことに感 謝。

 

 ちなみに英国ではミュージシャンというよりもTVやラジオのプレゼンターとしての認知度のほうが高いようだ。残念ながら実際に彼のラジオ番組を聞いたこ とはない(1984年に亡くなっている)。しかしJimi Hendrix"BBC Sessions"という2枚組CDではJimiとの共演("Hoochie Coochie Man")のほかにそのDJぶりも少しだけ聞けたりする。正直、はじめは彼と何らかの関係があったビッグネームがこんなにいたなんて思いもしなかった。 ジャンルを問わず、多くのアーティストを「champion」し続けた彼の功績は大きい。

 

champion」といえば、ホテルのラジオから夜遅くに流れてきたJohn Peel。自分が英国にいることを実感した瞬間(日本だと朝、出かける前に聞いていたので)。と同時に、肝心な時でさえ、「ありがとう」のひとつもまとも に言えない自分のふがいなさにホント涙が止まらなくなった。初の「おひとりさま」英国旅行はそんな悔しさいっぱいのものに終わったのだった。

 

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Review

kornerstoned

(20064/SmashingMag)

 

 とある閑静な住宅街。壁にはアイアン・メイデン等のゴールド・ディスクやストロークスの最新アルバムのポスター。「ちょうどよかったね、昨日の午後に届 いたばかりなんだよ。」と言って現れたのは、ようやく完成したアレクシス・コーナーのコンピレーション・アルバム『コーナーストーンド』を手に持った白髪 の中年紳士。発売延期が重なり、半ば諦めかけて2年近く過ぎたのだが、実際に出来上がったばかりの実物を目にするとやはり嬉しいものである。

 

 公式に発売される作品としては約8年ぶり。年代順に並べられた全44曲が収録された2枚組アルバム。「ゴッド・ファーザー・オブ・ブ リティッシュ・リズム・アンド・ブルース」と称され英国音楽史に名前を刻みながらも、その存在の重要性と同時にミュージシャンとしてのアレクシス・コー ナーの魅力を余すことなく伝えることができるコンピレーション・アルバムはほとんど存在していなかったように思う。ブルース・ミュージシャンと評されていることが多いのだが、この2枚を通して聞いてもらえれば彼の幅広い音楽性に触れることができるのではないだろうか。ジャンルに囚われず自然な流れの中から 生まれてきたもの。確かに時代と共に音楽も変化する。それは決して「流行のもの」というだけの話ではない。そんな時代の流れと同時に、心から音楽を愛する 人々が進化発展させてきた音楽に対する敬意や、その根底にあるリズム・アンド・ブルースをはじめとしたルーツ・ミュージックに対する彼の敬意と深い造詣を 感じとってもらうことができると思う。

 

ディスク・ワンは1954年から1969年までの作品を収録。1曲目の”Midnight Special”はスキッフルと呼ばれる音楽。ケン・コリヤーというスキッフルの代表アーティストのバンドにアレクシスが在籍していた際のものである。ちなみにスキッフルと言えばロニー・ドネガン。ドネガンとコリヤーが競演したなんとも贅沢なライブがCD化されているので、スキッフルとは何ぞやと思われた方はお試しを。さらに、ロニー・ドネガンと言えば、ジョン・ピール。3 年ほど前に彼の番組でケン・コリヤーの曲が流れていて非常に驚いたのを今でも覚えている。そんなジョンとアレクシスはBBC Radio Oneの同僚だった。いつの時代もどこかで誰かと繋がっているもので、マイ・スペースなど無くとも数珠繋ぎに聞いていくと興味深いものに出会えるかもしれ ない。

 

ディスク・ワンには初CD化となる10インチや7インチレコードからの音源も収録されており、全てデジタル・リマスターされている。 聞くところによると今回このアルバムを発売したサンクチュアリ・レコードには48トラックでのレコーディング・システムを採用した過去の作品(アーカイブ ス)専用のスタジオがあるのだそうだ。残念ながら専門知識は持ち合わせておらずその凄さは分りかねるのだが、デジタル・リマスターされたために無機質で冷たい音に聞こえるという印象は受けなかった。

 

ブルース・インコーポレイテッドというバンド名義の曲ではシリル・デイヴィス、ロング・ジョン・ボルドリー、ハービー・ゴーインズと いった素晴らしいボーカリストの歌声を聞くことができる。レッド・ツェッペリン加入前のロバート・プラントやフリー(今やクイーン)のポール・ロジャース が歌う曲も収められている。

 

ディスク・ツーは1970年から1983年までの音源を収録。英国の音楽番組「トップ・オブ・ザ・ポップス」のテーマ曲に使われていたという”Whole Lotta Love”C.C.S.というビッグ・バンド名義のもの。そのC.C.S.時代を含め、デンマーク人ミュージシャンのピーター・ソラップの存在はひとつ のキー・ポイント。アレクシス本人も偉大なブルース・アーティストに負けないほど味のあるボーカリストではあるのだが、彼の周りにはいつでも不思議と素晴 らしいボーカリストがいたのである。ピーターもそのうちのひとり。そしてスティーヴ・マリオットも。メイン・ボーカルではないものの”Get Off My Cloud”というザ・ローリング・ストーンズのカバー曲にギターとバック・コーラスで参加。この曲にはキース・リチャーズも参加している。そしてもうひとりのキー・パーソン、バックドアに在籍していたベーシスト、コリン・ホジキンソン。3年前にロング・ジョン・ボルドリーと共にステージに立つ姿を見た が、少し背中が曲がり気味でもその演奏は衰えを知らず鳥肌ものであった。

 

しかしながら、ディスク・ツーのハイライトはやはりこのアルバムを締めくくる”Mean Fool”である。未発表のラジオ・セッションとのことだが、とても亡くなる数週間前のテイクだとは思えない。このアルバムを手にした翌日の移動中に初めて聞いたのだが、電車内にもかかわらず溢れ出る涙を堪えることはできなかった。

 

「彼は西洋一のDJだったよ」と言ってくれたのは、幸運にもその数日後に初めて会わせてもらえたギャズ・メイオール。その「DJ」という言葉が持つ重みは、このアルバムを通して実感できるのではないだろうか。

 

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Review

Backcatalogs – The Alexis Korner Collection”

(200610/SmashingMag)

 

今年(2006年)は、3月に『kornerstoned』というコンピレーション・アルバムが発売されたのを皮切りに、「The Alexis Korner Collection」と題して合計6枚のアレクシス・コーナーに関連した作品がデジタル・リマスターされて発売された。オリジナル・アルバムの収録曲に加えて、多くの未発表BBCラジオ・セッションなどが収録されている。

 

まず7月に発売されたのが『R&B From The Marquee(1962年作品)、『At The Cavern』(1964年)、 Alexis Korner's Blues Incorporated』(1965年)という3枚のアルバム。これらは全てアレクシス・コーナーズ・ブルース・インコーポレイテッドというバンド名義のもの。その中でも、『At The Cavern』は今回初めてCD化された作品である。個人的にはブルース・インコーポレイテッドのアルバムの中でベストと言えるものであり、ぜひ聞いていただきたい1枚だ。断っておくが、過去にRadio ActiveというレーベルがCD化しているのだが、これはアーティスト側の許可なく無断で作成され販売されているものであり、正規品ではない。

 

10月にはブルース・インコーポレイテッドの『Sky High』(1966年)、ソロ名義の『A New Generation Of Blues』(1968年)、そしてニュー・チャーチというバンド名義の『Both Sides』(1970年)という3枚が発売された。

 

すでに2001年に『Red Hot From Alex』(1964年)が再発されており、これでブルース・インコーポレイテッドのアルバムは全てCD化されたことになる。「だから何?」と言われてしまえばそれまでなのだが、こういった過去の作品たち(アーカイブス)を手間ひまかけて、現在の最先端の技術でデジタル化して保存するという作業は、決して商業的には重要なものではないのかもしれない。中古盤市場で高価に取引されているアナログ盤を手ごろな値段でCDという形で供給して儲けようというだけであれば、先に述べたレーベルのようにブートレッグを作れば手っ取り早いのだ。

 

そんなことはさておき、ブルース・インコーポレイテッドの代表作というとやはり1962年の作品、『R&B From The Marquee』ということになるのであろう。アルバム・ジャケットとそのタイトルから誤解されやすいのだが、これはマーキー・クラブでのライブが収録されているのではない。あくまでもスタジオで録音されたものである。英国におけるブルースの発展を語るとき最も重要な人物のひとりであるシリル・デイヴィスがこのブルース・インコーポレイテッドで残した作品はこのアルバム1枚のみ。「一緒に新しくブルースのためのクラブを開かないか」と彼がアレクシスを誘ったところから全てが始まったのだ。そこに集まってきた若者たちの中にはその後ロック史に名を残すこととなる者も数多くいた。残念ながら、音楽の方向性の違いによりシリルはバンドを去ってしまう。どうやら一番の問題点はサックスを入れるか否かということだったようだ。確かに、ブルース・インコーポレイテッドの音楽は「こてこて」のブルースではなく、ジャズの要素がふんだんに取り入れられている。「じゃぁ、ジャズって何?ブルースって何?」とその定義なるものについて考えてしまいたくなるのだが、ジャンルにこだわることなく発想の赴くままにやりたい音楽をやる、ブルース・インコーポレイテッドはそんなバンドだったのではないかと思う。

 

そんな彼らの作品の中で最もジャズ寄りに聞こえるものが『Alexis Korner's Blues Incorporated』なのではないだろうか。ボーナス・トラックを除けばインストゥルメンタルの曲ばかり。発売されたのは1965年であるものの、録音されたのはシリルがバンドを去った直後の1963年である。セロニアス・モンクとチャールズ・ミンガスに捧げたとされる"Blue Mink"をはじめとしてアレクシスによるオリジナルの楽曲が多い。「ワールド・ミュージック」という言葉を彷彿とさせるようなアレンジの"Preachin' The Blues"はロバート・ジョンソンのバージョンと聞き比べてみるもの面白い。

 

逆に、最もブルース寄りに聞こえる作品が『At The Cavern』。リバプールにあるあの有名なキャバーン・クラブでのライブを収めたものだ。ライブでしか味わうことのできない緊張感やグルーブ感を存分に堪能することができる1枚。中でもゲスト・ボーカリストであるハービー・ゴーインズのボーカルは絶品。ボーナス・トラックにはラジオでのセッションが収められており、また、アルバム『Red Hot From Alex』の中でも彼の歌声を聞くことはできるのだが、やはりこのライブ・テイクには敵わない。"Everyday I Have The Blues"は必聴。今回こうしてCD化されたことで、少しでも多くの人の耳に彼らの音が届く機会が増えたことを本当にうれしく思う。

 

At The Cavern』のアナログ盤は非常に状態の良いものであれば6万円の値が付いていたこともあった。さすがにそれには手を出せなかったが、中古盤市場で売られているのを目にする機会はそれほど少なくはない。だが、『Sky High』のオリジナルのアナログ盤だけはそう簡単には出会えない。しかしながら、その音源は過去にCD化されており、耳にすること自体は難しいことではなかった。ゲスト・ボーカルとして参加しているダフィー・パワーは過小評価されているアーティストのひとりだろう。過去にもブルース・インコーポレイテッドに参加していたダニー・トンプソン(ベース)とテリー・コックス(ドラムス)によるリズム隊も素晴らしい。個人的には、初めて聞いた時からお気に入りだった1曲が"Wednesday Night Prayer Meeting"。チャールス・ミンガスのカバーである。以前にもミンガスの曲をカバーしていたアレクシス。実際にこの二人は親交があったそうである。ジャズの世界にそのルーツであるブルースの要素を持ち込んだミンガスと、ブルースの世界にジャズの要素を持ち込んだアレクシス。音楽を作るということにおいてジャンル云々などという形式的なことは関係ないのだということは両者の演奏する"Wednesday Night Prayer Meeting"を聞いてみればよく分かるのではないだろうか。

 

ブルース・インコーポレイテッドでの活動に終止符を打った後、ソロ名義で発表した2作目のアルバムが『A New Generation Of Blues』。アルバム・スリーブを手がけたのはヒプノシス。このアルバムの発売の方がピンク・フロイドのデビュー・アルバムより早くなってしまったため、結果として彼らのデビュー作品となったそうだ。数年前、ヒプノシスのメンバーだったストーム・ソーガソンにこのアナログ盤を見せたところ、数十年振りに目にしたらしく非常に驚いていた姿が印象的だった。アルバムの内容はというと、至ってシンプル。ゲスト・ボーカルはおらず、アレクシスの弾き語りが中心。そこにフルートとベース、またはサックスとベースとドラムが微かに聞こえる程度に加えられている。地味ながらも、まさに「聴かせる」アルバムとなっている。

 

ひとつのジャンルにこだわることなく幅広い音楽を取り入れていったアレクシスが次に興味を持ったもの、それがゴスペルやソウルといった音楽であった。自分の娘であるサフォーやデンマーク人アーティスト、ピーター・ソラップら若手のミュージシャンと共に始めたニュー・チャーチというバンド、そのお披露目となったのはザ・ローリング・ストーンズの『ハイド・パーク・コンサート』であった。ストーンズを離れたブライアンがまず一緒にバンドを組みたかった相手、それがアレクシスだったというのはよく知られた話なのではないだろうか。ヨーロッパ、とりわけドイツでよくライブ活動をしていたことから、その当時のライブ音源も収められているこの『Both Sides』というアルバム、今年初めに亡くなったサフォーさんへ捧げるものとして今回初CD化されたものではあるが、カーティス・メイフィールドのカバー"Mighty Mighty Spade And Whitey"は聞きごたえ充分であるし、即興たっぷりで18分や11分といったライブ演奏はその時間の長さを感じさせることはないくらいだ。

 

こうして久しぶりに改めて聞き返してみると、見事なくらいどのアルバムも1枚ずつ趣が違っていて、でもとても彼らしい共通した想いのようなものを感じることができた。しかし、残念ながら、正直なところ、その当時も、そして現在も、決してヒットするタイプの作品ではないと思う。それでもやはり残していく価値のあるものだ、と信じているのはほんの一握りの人たちくらいのものなのだろうか。

 

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